2019年9月5日、東京銀座のBINARYSTARにて、『リブラ ミートアップ#1』が開催された。
Facebook社が2020年にリリースを予定している暗号通貨『Libra(リブラ)』。
今回は、そのFacebook社が運営するFacebook Developer Circlesの主催ということもあり、200名を超える人数が参加。開始前からLibraへの関心の高さをうかがうことができた。
本ミートアップでは、『Libraのビジネス、産業、国家への意味合い』をテーマに、全部で5名のスピーカーが登壇。
まずはじめに、BINARYSTAR株式会社のアドバイザー・インキュベーションマネージャーである赤羽雄二氏から、リブラの目的や世界への影響について語られた。
Libraが世界に与える影響
「世界でお金を動かすことはメッセージを送るくらい簡単になるべき」という考えのもと、「多くの人々に力を与える、シンプルで国境のないグローバルな通貨と金融インフラになる」ことを目的としているLibra。
複数の資産に連動させることで価格の安定を図るという、グローバルなステーブルコインだ。
銀行口座を持たず、金融システムの外にいる世界17億人を、主たるターゲットとしている。
Libraは、完全に独立したLibra協会(スイス ジュネーブ)で管理される。この協会にはすでに28団体が加盟しており、ブロックチェーン関連企業はもちろんのこと、MasterやVISAなどの決済システム大手や、非営利組織や学術機関、また、ベンチャーキャピタルなども名を連ねている。
赤羽氏は、Libraが目指す理想形を『究極のLibra』とした上で、これが世界に及ぼす影響や、駆逐される可能性のある金融システムに関して語った。

また、各国の懸念についても、特に注目されているアメリカ、ヨーロッパ、日本の例を挙げ解説。
Facebook社の過去の情報漏えい問題や、法定通貨への影響などから、アメリカや欧州中央銀行からは否定的な見解が多く出されている反面、イギリスではポジティブな意見も見られるという。
日本政府でも議論がなされている段階だが、一部評価する声があったりと、その意見は国や機関によって様々のようだ。
いずれにせよ、『究極のLibra』が既存世界に与える影響は、非常に大きなものになると予想される。その波は金融システムだけにとどまらず、各分野に広がり、「国民・国境の意味や位置付けが大きく変わるかもしれない」とする赤羽氏。

一方、その中で、Libraを活用することで全く新しい産業が誕生する可能性もある。
実際、Facebook社が最初にソーシャルゲームを実装した時期に、それを取り入れたディベロッパーはアーリーアダプターとして非常に有利な立場に立ったように、Libraにも同じことが言えるだろう。
Libra/Calibraのビジネスモデルについて
次に登壇したのは、今回の主催団体であるFacebook Developer Circles Tokyo Leadの大森貴之氏。
ディベロッパーとしての立場から、Libraの特徴やビジョン、ビジネスモデルについて語った。

Libraはオープンソースであり、新プログラミング言語『Move』を用いて、誰でも開発に参加することができる。また、バグの修正においては、バグを発見し、報告することで報酬を得ることができる『バグ・バウンティ・プログラム』を採用しているという。
このように、誰でも参加可能なプラットフォームを用いることにより、世界中でナレッジを共有することができるシステムとなっている。

また、Libraに合わせ開発が進んでいるのが、ウォレットである『Calibra(カリブラ)』だ。
Facebook社の子会社であるCalibra社は、過去にはCoinbaseの取締役会にも選任され、現在はFacebook Messengerユニットを率いるデビッド・マーカス氏が代表を務めている。
CalibraはLibraのウォレットだが、既存サービスであるMessengerとWhatsApp上でも利用できる予定だという。
実は、アメリカやイギリスではユーザー同士の個人間送金が可能なMessenger。また、WhatsAppも今後、インド限定ではあるが、送金機能を実装予定だ。
大森氏は、こういった既存サービスの送金体験を通じ、「すでにCalibraのUI/UXの浸透は始まっている」と語る。操作は変わらず、使う通貨がLibraに変わるだけ。暗号通貨の送受信の経験がないユーザーでもCalibraを簡単に利用することができるであろうことは、想像に難くない。
前述したように、世界で17億人という人々は銀行口座を持てずにいる。しかし、そのうち15億人はインターネットにアクセスしているという。そして、この15億人がインターネットを利用して金融サービスにアクセスするようになると、世界経済全体では1100億ドルの成長が見込まれるのだそうだ。
Libraは、この未開のマーケットに踏み込むことで、世界の金融市場を拡大することを目指している。

現在はDeveloper Circlesを中心に広がりを見せるLibraだが、将来的には、「Libraの広がりにより、グローバルトレンドがDeveloper Circlesに集中するのではないか」と予想する大森氏。
2020年前半にローンチ予定とされているLibraだが、大森氏曰く、Facebook社が2007年から毎年開催しているエンジニア向けカンファレンス『F8』で何らかの発表があるのでは?ということだ。
Libraで学ぶブロックチェーン送金ビジネスの法規制
続いて、弁護士で、BINARYSTARのインキュベーションマネージャーでもある井垣孝之氏が登壇。
Libraが日本国内で展開していくうえで該当するであろう、送金・決済ビジネスに関しては、複数の法規制が絡んでいるが、今回はポイントを以下の3つに絞って解説が行われた。
ポイント1:為替取引に該当するか
ポイント2:仮想通貨に該当するか
ポイント3:前払式支払手段に該当するか

中でも特に重要なのは、『Libraは仮想通貨に該当するか』という点であると井垣氏は言う。
現行法では、仮想通貨に該当するかどうかの判断は『通貨建資産か否か』がポイントになっている。通貨建資産とは、いつでも日本円で償還または支払いができるものを指すが、仮想通貨に該当するのは、この『通貨建資産ではないもの』だ。
一方、Libraは法定通貨を含む複数の資産と連動しているため、通貨建資産に該当するのではないか、つまり、『仮想通貨ではない』とも解釈されうるのでないかという。もしそうなった場合、日本円と同様の為替取引とみなされ、銀行法の適用を受けることとなる。(注:仮想通貨は資金とはみなされていないため、為替取引にはならない。)
逆に、もしLibraを暗号通貨とするのであれば、関係してくる可能性があるのは『仮想通貨のカストディ業務規制』だ。
これは、顧客の資産を預かり管理する行為に対する規制だが、ブロックチェーンを利用して、中間業者を介さずP2Pで送金が行われる場合には適用されない。また、現状では曖昧な部分も多く、果たしてLibraやCalibraがこの規制に該当するかどうかの明確な判断は難しいという。
このように、Libraの法解釈が難しいことが示している通り、複数の資産に裏付けられ、しかもP2Pでの送金・決済が可能な通貨の登場は、これまでの法律、そしてビジネスの前提を覆す、と井垣氏は語る。

盤石と思われてきた金融システムの常識を一変させる可能性を秘めたLibra。
最後に井垣氏は、Libraのパートナーである28団体の売上規模の合計が約11兆円であることを挙げ、これらすべてがLibraのシステムをもって日本に参入してきた場合、果たして日本企業は対抗できるのかどうか、真剣に議論すべきであるとも述べた。
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取材・編集:Ayako